コンとギンが屋敷の前で息絶えたあの夜から、もう二百年。


先代であるこの屋敷の主を失った私は、いつか主と私のような別離の悲しさを味わうのなら、神使など必要はないと思っていた。
けれど、私ひとりで屋敷のすべてを担うには限界がある。


そんなときだった。
傷ついたコンとギンが現れたのは……。


双子の子狐の神使なんて、おもしろそうだと思った。
なによりも、ふたりが互いを想う絆の糸が私の心を動かした。
そうして、ひとりだった私の元に、賑やかで可愛い二匹の子狐が住み着いた。


三人でお客様をお迎えし、お見送りする。
そんな日々は、とても穏やかで、春の陽だまりのように優しくて。ときには予想外のことも起きたが、ひとりだったときよりもずっと楽しく、たくさんの幸せを知った。


コンとギンが現れてから二百年。
あの日から、私が笑わなかった日はないだろう。


ふたりは『雨天様に救っていただいた』とよく口にしているが、本当に救われていたのはきっと私の方だ。
主を失った私に、コンとギンはまた誰かと過ごすことの楽しさや幸福を教えてくれたのだから……。