そして、再び私を漆黒の瞳に映すと、いつもは真顔の綺麗な顔を、少し緩めた。


「……善処する。ありがとう、綾乃」

 今まで見たことのないような優しい表情を向けられて、今この瞬間だけ時が止まったような錯覚にさえ陥りそうだった。


「気をつけて帰れよ」

 そして、そう小さく呟くように言って、坂部くんは今度こそ寄り道カフェの戸の中へ消えていった。


 坂部くんはずるい。

 日頃はクールで、今まで散々私のことを突き放すようなことを言ってばかりだったくせに、突然手のひらを返したような態度を取られるのは変な感じだ。


「何で私、さっきからこんなにドキドキしてるんだろう……」


 坂部くんの意外な一面にふれたからなのか何なのか、ドキドキと高鳴る鼓動の理由はわからない。

 けれど、思わぬ言葉をもらって、私は何だか照れ臭いような気持ちになったのは確かだ。

 お礼を言ってくるということは、私は決して坂部くんに鬱陶しがられていたわけではないということだろうか。

 何となく胸の奥底があたたかくなるのを感じながら、私は夜道を歩いた。

 *

 翌日。私は一枚のCDを明美から借りて、放課後、寄り道カフェへ向かった。


「まさか昨日のお客様にそんな事情があっただなんて……」


 レジカウンターの端にブルーのCDデッキを持ってきてくれたミーコさんは、明美から借りたCDを再生してくれる。

 昨日、京子さんや坂部くんは私の話を聞いていたけれど、ミーコさんはあのときはお店の外にいたから、今改めて浜崎さんのことを説明したのだ。