「……坂部くんが思っている以上に、みんな坂部くんのこと、嫌いじゃないと思うよ」

「は? 今度は何だよ」

「あ、えっと、坂部くんって、すごく周りを敵視してるように見えるときがあるからさ」


 自分で言って、何だか恥ずかしくなってきた。

 そんな私を見て、坂部くんは小さく息を吐き出した。


「ミーコに吹き込まれたことか? 全部忘れろ」

「え……っ。何で……」

「俺みたいに他と違うやつに執着したって、おまえにとって何もいいことなんてないだろ」


 確かに自分でも不思議なくらいに、最近の私は、坂部くんのことを心配して考えては行動に移してるなと思う。

 最初は、何もしないから何もできないままなんだと私には偉そうに言いながら、人と関わろうとしない坂部くんに腹が立ったからだった。

 きっかけは何であれ、私は過剰に坂部くんに構って執着してると捉えられてもおかしくないのかもしれない。

 坂部くんのためだなんて言ったらおこがましいけれど、決して私は損得勘定で動いていたわけではない。


「いいことなんて、最初から求めてないよ」


 これだけ怒るっていうことは、きっとミーコさんの言ったことは本当だったということだ。
 
 ミーコさんは、坂部くんは私に対して心を許してきていると言っていたけれど、きっと今、彼は私のことを警戒している。

 だって、怒っているはずなのに、坂部くんの瞳はどこか不安そうにしているから。


「この前も言ったじゃん。坂部くんが何であっても、私はちゃんと関わっていきたいって。それだけじゃ、ダメなの?」

 坂部くんの顔を見上げると、戸惑うような坂部くんの瞳と目が合う。


「おまえは、何も知らないからそんなことが言えるんだ」

「そうかもしれない。だけどそれなら坂部くんが教えてくれたらいいじゃん」

 想像はついたが、教えろと言ったところで、坂部くんは何かをこちらに言ってくるような素振りはない。


「……何か坂部くんが危害を加えられたならもとかく、否応なしに周りの人を突っぱねるのは違うと思うんだよね」

 不安そうに揺れる漆黒の瞳が、何を考えているのかはわからない。

 けれど、坂部くんのそばにいるようになって垣間見える彼の姿こそが、彼自身の弱さなんだと思う。


「もっと身の周りの人を受け入れてあげてよ。みんな、坂部くんが思っているより悪い人じゃないと思うよ」

「……そうか」

 坂部は小さく口を開く。

 少なくとも、坂部くんは私の話を聞いてくれていたということなのだろう。