「じゃあ特に問題ないんだから変な反応するな。あとは俺とミーコがやっておくから、綾乃はとっとと帰れ」

「え、でも……っ」

「これ以上遅くまで残るなら、俺がおまえの家までついていく」

「ええっ? 何それ」

「嫌なら早く帰れ」

 坂部くんは私の片手に握られていた布巾を取ると、シッシッと私を片手でやる。


「何よ、感じ悪い。帰ればいいんでしょ? お疲れさまでした」


 売り言葉に買い言葉とばかりに、そんなことを口にして、坂部くんに向かって舌をべっと出す。

 そして、レジカウンターの上で札束を持ったままの白猫に頭を下げる。


「ミーコさんも、私のせいですみません。お先に失礼します」

「いいえ、私が悪いんです。気になさらないでくださいね」


 ミーコさんは申し訳なさそうに、三角の二つの耳を下にさげた。

 私が店舗のドアに手をかけたとき、再び坂部くんの声が聞こえる。


「ちょっと遅くなってしまったな。真っ直ぐ帰れば補導は大丈夫だと思うが、最近は早ければこのくらいの時間帯から商店街は酔っぱらいが増えるから、くれぐれも気をつけて帰れよ」

 思わず坂部くんの方を見ると、彼はこちらに歩いてきて戸を開けてくれる。

 触れたわけではないのに背に坂部くんの体温を感じて、思わず胸が跳ねた。