「信じられないって表情をされてますね」

「……だって、いつもの坂部くんから全然想像つかなくて」

「でも、最近のギンさんは綾乃さんに対しての態度が少し丸くなってきたように思いますよ。きっと、それだけギンさんにとって、綾乃さんが心を許せる相手になってきたということではないでしょうか」

　坂部くんが、私に心を許している……？


「さすがにそれはないと思いますけどね……」

　あり得ないと内心思っていると、突如、低い声が私たちに向かって飛んできた。


「何を話している」

　いつの間にこちらに来ていたのだろう。

　すぐそばでこちらを見ていた坂部くんに気づいて、私もミーコさんも思わず背筋を伸ばした。ミーコさんの尾についた鈴だけが、その振動により張り詰めた空間に高い音を奏でる。


　坂部くんは漆黒の長い髪とそれと同じ色の三角の耳ともふもふの尻尾を持った元の姿の状態でこちらに歩いてくる。

　厨房での仕事は、終わったのだろうか。

　闇を秘めたような黒い瞳はまるで相手を威嚇しているようで、坂部くんが怒っているんだと感じ取れた。


「ミーコ、余計なことをベラベラ話すな」

「す、すみません……」


　坂部くんにきつく言われ、ミーコさんは文字通りその場で小さくなる。