つらいことや悲しいことがあったときはもちろん、特別取り立ててつらいことがなくても見えない未来に向かって歩くことに疲れてしまうとき、私はいつも甘いもので癒されてきた。

 そんな私にとって、まさにここは理想的なカフェだったんだ。


「ええ。ここで寄り道することで、甘いものを食べていただき、必要としてくださるのなら私たちがお話を聞いて、また頑張ろうって思ってもらえたら、それ以上のものはないです」

「そうですね、素敵だと思います」

 ミーコさんは「でしょう?」と嬉しそうに尻尾を揺らすので、尻尾の先にある赤いリボンについた鈴が可愛らしい音色を立てる。


「あやかしだけじゃなくて人間まで受け入れちゃうなんて、坂部くんは人間のことを好きなんですよね、きっと」

「そうですね。ギンさんは以前、人間に助けていただいたことから、人間には非常に恩を感じておられます」

 まるでその通りだと言っているようなミーコさんの言葉に、私は疑問を感じる。


「でも、それならどうして坂部くんは人間と必要以上に関わろうとしないんですか? 確かに坂部くんはクールな性格だけど、それだけじゃない気がして……」

「それは難しい質問ですね。ですが、ギンさんは人間だから必要以上に関わらないようにしている、というわけではないですよ」

「……え?」

「ギンさんは、大丈夫だと自分が心を許せるまでは、どうしても相手を警戒する傾向があるのです」

「そうなんですか?」

 何だか意外だ。

 もしかして坂部くんは、極度の人見知りなのだろうか。

 驚く私を見て、ミーコさんは困ったように笑った。