「食べ物を求めて毎日のように商店街をうろついてました。けれど誰も野良猫が寄り付くのを好ましく思わず追いやられてばかりで、そんなとき寄り道カフェにたどりついたのです」


 ミーコさんは、今はカーテンを下ろしている入り口へ視線を移す。

 そこで、ミーコさんは坂部くんと出会ったということだろうか。


「ギンさんは、お腹を空かせた私にフルーツの切れ端やスポンジの残りをくれました。あのまま死ぬと思ってた私を助けてくれたのです」

 まさか、ミーコさんが坂部くんに助けられる形で出会っていただなんて、全く想像つかなかった。


「それからはここに顔を出す度にギンさんに残り物をもらいました。そうしているうちに、ギンさんは猫のご飯を用意してくれるようになって、私は一生を終えるまでギンさんのそばで暮らしました」


 捨て猫だったミーコさんにとって、坂部くんは自分の居場所を提供してくれた命の恩人だったんだ。

 そんな彼がミーコさんにとって優しくないわけがない。

 まさか坂部くんにそんな一面があるだなんて、知らなかった。


 ミーコさんと坂部くんは恋人同士とかではないと聞いていたが、まるで家族のように強固な繋がりがあるように見えたのは、二人には昔からの繋がりがあったからなのだろう。


「亡くなったあと、私はギンさんに恩返しがしたくてあやかしになりました。あやかしとしてこの世界に存在している間は、今度は私がこのお店を手伝うことで恩を返していきたいと考えているのです」

「……そうだったんですね。何だか、何も知らずにすみません」

「いえ、こちらこそ、こんな私の昔話に付き合ってくださりありがとうございます」