「やっぱり、坂部くん、なの……?」


 何かよくわからないけど、やっぱりさっきの光景が頭から離れなくて、ようやく口から出たのはそんな問いかけだった。

 すると、目の前の男性は小さく息を吐いた。


「……やっぱり。さっきの見てたんだな。俺のことつけてきたんだろ」


 これは、私の問いに対する肯定を意味しているのだろうか。

 じゃあ、やっぱりこの目の前の男性は、坂部くんなの……?


「つけてきたわけじゃないよ。偶然私も商店街に用があってさ……。坂部くんが路地の方へ入っていくから、何があるのか気になって」

 私の言葉を聞いて、男性はまるで呆れたように息を吐いた。


「ねぇ、本当に坂部くんなの? その格好……」

「誰にも言うなよ」


 私に発せられる声は低く、明らかに怒っている。

 そりゃあ勝手にあとをつけて、秘密を見てしまったんだから、怒られて当然だ。

 だけど、何度か会話を交わしてみてやっぱりこの声は坂部くんのものだと思った。


「うん……。何か、ごめんね。坂部くんが放課後、カフェでコスプレをしていることは誰にも言わないから」

「は? 何だよ、コスプレって」

「だ、だって、耳と尻尾と……、あと、髪の毛も……っ」

「とぼけるな。おまえ、さっきの見てたんだろ? どこからどう見てコスプレに見えるんだよ」


 坂部くんは不機嫌そうにそう言うと、彼の頭についた三角の耳と腰についたモフモフをあからさまに動かした。