閉店後に食器を片付けていた私の呟きに、少し遅れて坂部くんが返してきた。

 坂部くんは、明日のケーキに使うフルーツソースを鍋からボールに移して、ラップをかけたところのようだ。


 日中は学校に通っていることから、坂部くんは毎日のケーキをこうして閉店後や早朝に仕込んでいるらしい。

 同じ学生として、軽く尊敬する。


「まぁ、そうなんだけどさ……」


 坂部くんの努力は素直にすごいと思うが、やっぱりこの冷たい返答に関してはいただけない。

 坂部くんには、ココロってものがないのだろうか。


 ミーコさんや京子さんを見る限り、あやかしだからココロがないというわけではないことは証明されている。

 これはもう、坂部くん自身の性格としか言い様がないように思う。


 坂部くんは作ったフルーツソースの下に氷を敷くと、今度は粉を振るい始めた。

 私は最後の食器をしまって、布巾と一緒に厨房を出る。


「あーもう、何なのよ」


 営業中は開いている厨房のドアを閉めて、フロアの方へ出たと同時、思わず小さく息を吐く。

 すると、少し離れたところからクスクスと笑う声が耳に届く。


 声の聞こえた入り口の方を見ると、ミーコさんが入り口そばのレジの勘定をしているようだった。


「ああ、すみません。またギンさんに何か言われたのですか?」