さらに、うつむき加減に歩く女子学生の顔が見えた瞬間、私は思わず思考がストップした。

 というのも、今話題に出していた浜崎さんが来店したのだから。


 浜崎さんとは体育館裏から走り去るときに遭遇しているものの、あのときの彼女は私の顔を見ていなかったのか、私と顔を合わせたことを気にするような表情はなく、むしろあからさまに不自然な私の態度を疑問に思っているような表情を浮かべている。


「こちらにどうぞおかけください」

 が、それも束の間。すぐにそう声をかけたミーコさんに促された席へ浜崎さんは腰を下ろした。


「何よ、綾乃の知り合い?」

「え? まぁ……」


 さすがに浜崎さんと同じ空間で、実はさっき話してた一年生の子が彼女なんですだなんて、小声でも言えるわけがない。


 でも、なんで浜崎さんがここに……。

 まさかとは思うが、浜崎さんも実はあやかしだとか?


 人間に見えた京子さんがあやかしだったことから、最近では来るお客さんはみんなあやかしかもしれないと思って対応している。

 あやかしも人間の姿で現れる中、私には見た目で区別することができないのだから。


「……人間のお客さんね。きっとここが必要で来た子だろうから、しっかり癒してあげないとね」

 京子さんがそう言うということは、浜崎さんは人間で間違いないのだろう。


「……えっ?」

「ここはそういうところだから。綾乃だって、そうでしょ?」

 少し疑問に思って京子さんを見るけれど、彼女はそう言って微笑むだけだ。


 浜崎さんだけでなくて、私もって……。

 確かに、ミーコさんに初めて会ったときも同じようなことを言われた。

 全くもって京子さんの言わんとしていることはわからないけれど、お客さんが入ったからいつまでもここにいるわけにもいかず、私も厨房に戻ったのだった。