それだけなら自分の気持ちの折り合いをつければ良いだけの話だけなのだけど、それができないのはきっと体育館の隅でこっそりと吹奏楽部の演奏を聴く浜崎さんを見てしまったからだ。


「なーに? もしかして、その話、続きがあるんじゃない?」

「え? いや……」

「もう、何勿体ぶってるの。この前助けてもらったんだから、あたしも綾乃の力になりたいのよ」

「ええっ!?」


 やけにしつこく聞いてくると思ったが、そういうことだったのか。どうやら京子さんは、前回のお返しに私の問題を解決したいのだろう。

 さすがにこれは私自身の問題じゃないし、これ以上話してしまうのは気が引けるところがある。


「少し他人に話すだけでも、楽になることもあるんだから! それにあたし、こう見えて口はかたいのよ」


 だけど、得意気にする京子さんの熱意に負けたと言えば聞こえはいいが、私はそんな京子さんの厚意に甘えることにした。



「はい……。実は私、今日、明美……あ、さっき話した吹奏楽部の部長なんですけど、明美が部活に来なくなった一年生から退部届けを渡されているところに遭遇してしまって……」

「あら、そうだったの……」

 京子さんはさっきの話の続きに、あからさまに残念そうな表情を浮かべる。


「でも私、どうしてもその一年生の子……浜崎さんっていうみたいなんですけど、浜崎さんが吹奏楽部をやめたいと思っているだなんて思えないんです」