「そうよ、だからあたしに隠し事しようとしたってダメなんだからね? 何があったの? ギンにいじめられた?」

「いや、そういうわけじゃないんですけど」

「店主だからって遠慮しなくていいのよ。もしギンに嫌なことされたなら、あたしがガツンと言ってあげるし」


 いつの間にか、京子さんの中で私の元気がない理由が坂部くんにいじめられたからになっている。

 私の元気がないことはにおいでわかるらしいが、どうやらその理由まではにおわないらしい。


 全く非のない坂部くんにあらぬ誤解がうまれているため、坂部くんの名誉を守るためにも私は口を開いた。


「……実は親友が吹奏楽部の部長をやっているんです。いつも疲れたような顔をしていて、少し気にはなってたんです。それが今日、一年生の部員に、実力はあるのに大会で失敗してしまったことがきっかけで部活に出てこられなくなってしまった人がいて、そのことで悩んでいることがわかって……」


 今日見た、明美と浜崎さんとのやり取りを思い返す。

 京子さんは少し驚いたような表情をした後に、神妙そうな表情を浮かべる。


「そうだったの。お友達のために……。綾乃は優しいのね」

「そんな、全然。親友が悩んでるのに、私は何も力になれなくて、結局気を遣わせてしまっているだけな気がします」

「考えすぎよ。きっと綾乃のお友達も、綾乃の優しい思いに救われているはずよ」

「……だといいんですけど」


 私と明美、逆の立場で考えてみると、京子さんの言う通りなのかもしれない。

 もし私が明美の立場なら、明美を面倒事に巻き込みたくないと思うし、明美が自分のことを心配してくれるのならその気持ちだけで嬉しい。