「……く、クラスのみんなも、坂部くんの事情まで知らなくても、坂部くんのこと気にしてるよ。あまりに坂部くんが周りに壁を作ってるから声をかけづらいだけで、みんな坂部くんってどんな人なんだろうって思ってるから。だから、特に理由がないなら……みんなに歩み寄ってほしいなって思う」


 一気にそこまで捲し立てるように言って「ご、ごちそうさま!」と私は残りのクレープを口に押し込んで席を立つ。

 今にも顔が燃え上がりそうに熱くて、もう限界だ。


 坂部くんは、相変わらずポカンと口を開けて私を見つめたまま固まっている。

 何を考えているのかわからないが、あまりに間抜けに見えるその表情のせいで、せっかくのイケメンが台無しだ。

 私は坂部くんを置いてクレープの模擬店の教室を出たのだった。


 人混みを掻き分けて走って、校舎を飛び出す。

 すぐそばの体育館のそばに立つ時計塔は、もうすぐ明美の出る吹奏楽部の演奏の時間が近いことを知らせていた。


 そうだ。体育館に行かなきゃ……。

 だけどそのとき、体育館裏の方から複数の女子が揉めているような声が聞こえてきた。


「……だから、そういうのが重いって言ってるんです。先輩が何と言おうと無理なものは無理です。もう、私に関わらないでください」

「ちょっと、浜崎(はまざき)さん!」


 今聞こえたのは、日頃から耳にする明美の声だ。

 声のした方を見ると、浜崎さんと呼ばれた子が、明美の手にくしゃりと紙を押し付けてこちらに走ってくる。