「おまえ、甘いものに目がないとは言ってたが、それはどう見てもおやつだろ。飯くらいちゃんと食え」

「うるさいなぁ。そういう坂部くんだってクレープ食べてるじゃん。それ、坂部くんのお昼なんでしょ?」

「俺のはツナマヨというお食事系のクレープだ」

「ツナマヨクレープ? 美味しいの?」


 クレープを購入したときに見たメニューには、甘い系のクレープの他にも、ツナやチキンをレタスと一緒に包んだお食事系のものがあったのを覚えている。

 確かにその中にツナマヨがあって、物珍しくて説明を読んだんだ。
 
 中身はツナととうもろこしとレタスが包まれているんだと、可愛いイラストで描かれていた。


「ああ、こういうお食事系のクレープは初めて食べたが、結構いけるぞ。おまえも食うか?」

 坂部くんは何のためらいもなく、ご丁寧に自分の手元のクレープをこちらに差し出してくる。


「い、いいよいいよ。悪いし……」

 気にはなるけれど、これって坂部くんと間接キスになるってことだよね……?

 変に意識してしまって、無駄に心臓の音が大きく聞こえる。


「そうか。食ってもないやつがこれ以上文句言うなよ」

 ……別に文句を言った覚えはないのだけれど。


 至って平然とした様子で再びツナマヨのクレープに口をつける坂部くんを見ていると、何だか一人だけ間接キスとか意識してドキドキしてる自分がバカみたいに思えた。


「そういやさっき、男子たちにデコレーション教えてくれて助かったよ。ありがとう」


 何か話題を変えようと考えて出てきたのは、さっき模擬店の仕事中に、坂部くんが不真面目なデコレーション担当の男子二人組にデコレーションの指導をしてくれたことだった。

 坂部くんが二人に指導したのはほんの少しの時間だったし、二人も格段に上手くなったとかじゃないけれど、そのあとの流れは本当にスムーズになって助かった。

 だけどそれがまた坂部くんの気に障ったのか、彼は少し不服そうに目を細めた。


「ああ、あれな……」

「うん。ついでに坂部くんもクラスメイトとも会話できるってわかったし、よかったよ」

「どういう意味だ」

「だって、坂部くんっていつも自分の周りに壁を作ってるでしょ?」

「別にそんなつもりはな……」

「あるでしょ?」


 そんなつもりはない、なんて抜かそうとしていた言葉に被せるように私が言うと、坂部くんはうっとうしそうに眉を寄せた。