「……それ、貸せ」


 坂部くんは、二人の真ん中に置かれたままの、明らかに失敗作のパンケーキの皿を手に取る。

 見るに堪えないデコレーションが施されている一番上のパンケーキを取り除くと、坂部くんは新しい一枚をパンケーキを焼いていた男子から受け取って戻ってくる。

 そして二人組が怪訝そうに見つめる中、二人の手から生クリームとチョコペンを取り上げると、ものの数秒で完璧なデコレーションを完成させたのだ。


「おおっ!」

「すげぇじゃん、坂部」


 瞬間、まるで手のひらを返したように、男子二人組は坂部くんを称賛する。


「別に。コツさえつかめば大したことじゃない」

「コツってなんだよ」

「もったいぶらずに教えろよ」


 坂部くんは両側から男子二人組に詰められ、仕方ないなとばかりに二人の中に入っていく。


「……ちょっと、綾乃」


 そのとき、明美が私の懐を小突いた。

 私たちの手元のテーブルに視線を落とすと、明美のチョコペンのデコレーションが終わったパンケーキの皿がひとつと、今届いたのであろう新しいパンケーキの皿がひとつ乗せられている。


「あっ、ごめんね」

「いいけど……。坂部がデコレーションが得意だなんて、いつ知ったの?」

 素朴な疑問のように口にした明美に、思わずギクリとする。


「いつ、だったかなぁ。あははははっ」

「何それ。最近の綾乃、時々怪しいよね」

「そうかなぁ? 気のせいだよ」