「明美、お客さん待ってるから。これ、生クリームのデコレーションが終わったから、明美仕上げて」

「ああ、ごめんね」


 まるで今、文化祭の模擬店の営業中であることを忘れていたかのように返事をして、明美は私がクリームでデコレーションしたパンケーキの真ん中部分にチョコペンでクマと模様を描く。


「……このクマ、ぶっさいくかな?」

「そう? 愛嬌ある顔だから大丈夫だよ」


 チョコペンでクマを描いた明美が難しそうな顔で首を傾げる。

 恐らく明美はクマの輪郭が少しぶれてしまっていることや、目が均等に描けていないところを気にしているのだろうけれど、私から見たら可愛く描けていると思う。


「そっか、それなら良かった。坂部、これ一番テーブルの注文」

 ちょうどキッチン側とフロア側に仕切ったカーテンの向こうから戻ってきた接客担当の坂部くんに、明美が声をかける。


「ああ」

 坂部くんは、表情ひとつ変えずに明美から四角いお盆に乗った二皿のパンケーキを持って、再びフロア側へ出ていった。


「本当、イケメンがもったいない。なんで無愛想な坂部がオーダー担当なのよ」

「そうだね」

 坂部くんこそデコレーション担当とかパンケーキを作る担当が適任だろう。

 どうして坂部くんが接客を担当することになったか、その経緯を私は全く覚えていない。

 話題が坂部くんに向いたことでまた明美にからかわれるのかと少し身構えた。

 けれど、背後からギャハハとキッチンの作業中には似つかわしくない声が聞こえて、私たちの意識はそちらに移った。


「さすがにそれはねぇだろ。宇宙人かよ」

 デコレーション担当は、私たちの他に男子二人組が同じ時間帯にやっている。