そうなれば必然的に坂部くんと同じバイト先であることはバレてしまうだろう。

 そこまで想定した上で、まだ心の準備ができてないというのが、私の今の言い訳だ。


「怪しいなぁ。もしかして綾乃、私に隠れて何かしてる?」

 私の物言いが不自然だったのか、訝しげに明美は私を見る。


「な、何もしてないよ!」

 明美は良くも悪くも、人のことをよく見ている。

 私が隠したところで、バレてしまうのも時間の問題かもしれない。


「そうかなぁ? 最近、やけに表情もイキイキしてるし……」

 明美がチョコペンを持ったまま宙に視線を上げる。そして、ひらめいたようにパチンと手を叩いた。


「わかった! もしかして綾乃、好きな人でもできた?」

 思わず生クリームをその辺に飛ばしてしまいそうになった。


「何でそうなるのよ。好きな人なんていないから」

 なぜか瞬間に坂部くんの顔が出てきてしまったのは、ついこの前、京子さんに坂部くんのことでからかわれたからだ。


「ほんとかなぁ~?」

 明美にも坂部くんのことが気になってるんじゃないのかと最近言われていたから、もしかしたら京子さんと同じことを思われているのかもしれない。

 何となく怪しむようにこちらを見る明美の前に、私は慌てて生クリームのデコレーションを終えた皿を差し出した。