十月になり、すっかり頬を撫でる空気は秋らしくなった。

 そんな中、私たちの高校では文化祭が開催されていた。


 文化祭は一日のみの開催で、一般公開も行われる。

 文化系の部活動は日々の成果の発表の場でもあり、その他クラスごとで模擬店も開かれる。

 私たちのクラスは、ごく一般的なカフェをやることになった。


「綾乃って、そんなに料理できたっけ? めちゃくちゃ上手いんだけど」

 教室の三分の一を簡易のキッチンにして、家庭科室から借りているIHで他のクラスメイトが焼いたパンケーキにホイップクリームを絞る。


「え? ああ、まぁね……」

 基本的には寄り道カフェでの仕事は接客メインだが、坂部くんの見よう見まねで、クリームをそれっぽく絞れるようになったのは確かだ。


 まだ明美には、寄り道カフェでのバイトのことは話せていない。

 バイト先に坂部くんがいることや、何よりその坂部くんがあやかしだったことなどが、私の口を重たくさせる要因となっているのは間違いない。


 寄り道カフェ自体、人間も訪れる場所であることから、別にバイトのことだけなら明美に話しても大きく支障はないのだろう。

 だけど明美のことだから、私のバイトのことを知ったら根掘り葉掘り聞いてくることは確実だ。

 つい先日まで、ドジな私にはバイトは向かないと私自身屁理屈をこねていたくらいなのだ。

 いきなりバイトを始めただなんて話をした日には、バイト先まで見に来られてしまうことを覚悟しておかなければならない。