「今度はとっても良い人よ。綾乃と一緒に行ったスーパーの店長さん。灯台もと暗しとはよく言うものね。こんな近くにあんな素敵な人がいるだなんて、どうして今まで気がつかなかったんだろう。これも、綾乃のおかげね」

「はぁ……」


 もう新しい恋を見つけてくるだなんて……。

 まだ京子さんがこの前の男性と別れたという日から、ギリギリ一週間経ってないくらいだ。


「相変わらず、京子さんは懲りないですね」

 その声に背後を振り返ると、ちょうど本日のケーキセットを運んできた坂部くんの姿があった。


「恋多き女って言ってちょうだい。綾乃も好きな人ができたときには相談のるわよ」

「……ありがとう、ございます」


 好きな人、かぁ……。

 そのとき、ちょうど坂部くんが私の背後で小さく息を吐く音が聞こえて、思わずドキンと心臓が飛び跳ねた。


「まぁ恋愛はいいけど、迷惑はかけないでくださいね」

「そんなこと言って~、何だかんだ言って頼られるの好きなくせに」

 いたずらっ子な笑みを浮かべて言う京子さんの声が聞こえているのかいないのか、坂部くんはそのまま厨房の方に戻ってしまった。


「……もしかして、ギンのこと気になってる?」

 思わずそんな坂部くんのことを目で追っていると、背後から聞こえた京子さんの声に肩を震わせる。


「そ、そんなことは……っ」

「やーん、綾乃、真っ赤。可愛いー!」

「もう、からかわないでくださいよ! ミーコさんも、笑わないでください!」


 すぐ近くのテーブルを拭きながらこちらの話に耳を傾けていたのだろうミーコさんは、クスクスと笑っている。

 何はともあれ、今日の京子さんを見る限り、彼女が前を向いて歩いていけていることがわかって、内心ホッとしたのだった。