……って、私は決して希望のドリンクを伝えるために口を開いたわけではないのに……っ。


「さすがに申し訳ないです。自分の分くらい出しますよ」

「遠慮しなくていいのに。あたしたちの仲じゃない」

 京子さんは相変わらず上機嫌で、とても私が少し何かを言ったところでそこを譲ってくれそうな様子はない。


「ほんっと他に好きな子作る時点で、クズ男だと思ってたけど、あそこまでゴミクズ男だったとはね」


 オーダーを取ったときにミーコさんが持ってきてくれたお冷やを一気に飲み干して、京子さんはオブラートに包むことなく口に出す。

 けれど、その声色はやっぱりどこかスッキリしているように聞こえた。


「……こんな言い方したら気を悪くさせてしまうかもしれませんが、今回は運が悪かったんだと思います。人間の男性がみんなああいうわけではないと思うので……」


 人間の男性を選んでお付き合いしていた京子さんは、今回のことで人間に対して悪い印象がついてしまったんじゃないか、少し気がかりだった。

 たった一人につけられた心の傷のせいで、関係のない他のものまで悪に見えることは、決してありえない話ではない。


「大丈夫よ。あたしは人間の世界が好きで人間に混ざって暮らしているのだから。今までの恋人もみんな人間の男性だったけど、みんなとても良い人だったわ」

「そうですか……」


 何となく胸の奥にあった気がかりがなくなって、スッと心が軽くなるようだ。

 そのとき、「お待たせしました」と坂部くんが盆に二つのケーキとドリンクを載せてこちらに来る。