私がバス停に来た二人の横を通り過ぎたときに聞こえた男女の声に、思わず京子さんを追いかけようとした足を止めた。


 なんで京子さんが悪者になってるの?

 人が人を好きになることは、誰にも止められない。

 それが思うように実を結ぶこともあれば、心変わりやすれ違いが起こることだってある。

 人の恋愛に口を出すつもりもなければ、そうすべきじゃないのもわかっているつもりだった。

 けど、さすがに黙って聞いていられなかった。


「ちょっと、それはないんじゃないですか?」

「……は?」

 いきなり前に出てきた私に、男性はいぶかしそうにまゆを寄せる。


「私は完全に部外者ですし、口を出すべきではないことはわかってます。でも、今のは人としてどうなのですか?」

「……なんなんだよ、おまえ」

「京子さんに、謝ってください。そして、今の発言を撤回してください」

「……新入りちゃん!」

 京子さんが後ろから私に駆け寄り、私の両肩を両手でつかむ。


「いいのよ、もう……」

「でも、二人はちゃんと付き合っていたんですよね? それなのに、こんな風に京子さんだけ悪く言われるなんて……」


 ただただ怒りに任せてそう口走っていたけれど、すぐそばにあった京子さんの表情を見て、私の声は尻すぼみに消えていった。

 京子さんの勝ち気な姿はどこにもなく、ただ悲しそうにまゆを下げている。

 私は自分の感情の赴くままに大きな失敗をしてしまったのかもしれないと、早くも後悔してしまった。