「ここに来たのは、また寄り道カフェのケーキとアイスミルクティーに癒してもらうため。だけどここに来た途端、動く気になれなくなっちゃって」

「そうでしたか……」


 京子さんは悔しそうに両手を握りしめる。

 そのとき、私を通り越した先を見つめたまま、京子さんが固まった。


「京子……」

 思わず低い声の聞こえた方を振り向けば、茶髪に水色のポロシャツを来た大学生くらいの男性と、その男性と腕を組む栗色ウェーブの髪の女性が見えた。

 その様子から、彼が京子さんと付き合っていた彼氏だったんだって直感でわかった。


「え? この人が先輩の元カノ?」

 京子さんの名前を知っていたのか、栗色ウェーブの女性は少しまゆを寄せる。


「何言ってるんだよ。俺に元カノなんていないって言っただろ? ずっと付きまとわれてたから周りには付き合っていたように見えてたみたいだけど、実際のところ、そんなんじゃねぇから」

 困ったように視線を動かしたように見えたがそれも束の間、男性はヘラりと笑ってそう誤魔化す。

 京子さんは強気で言い返すのかと思いきや、悔しそうに唇をかんで、その場を立ち上がって商店街の方へ早足で歩いていってしまう。


「京子さん……っ!」

 私が思わず呼び止めるも、京子さんは全く足を止める素振りを見せない。


「へぇ、先輩、大変だったんですねぇ。でも、もううちがいるから大丈夫ですね」

「そうだな。警察に相談する前にきみという恋人ができて俺は幸せだよ」