「ここね、この前言ってた彼氏にフラれた場所でさ、感傷に浸ってたの」

「……え。そう、だったんですか」

「ええ。彼ね、そこの大学に通ってたから、よくここのバス停で待ち合わせをしていたのよ。あの日もそうだったわ」


 このバス道を商店街のある方向と反対側に五分ほど歩いたところに、私立の四年制大学がある。

 だから平日の夕方はここのバス停が学校帰りの大学生であふれているといったことは、日常の光景だった。


「あたしが寄り道カフェに通うのにこのバスを利用していたから、同じようにこのバスを使ってた彼があたしに一目惚れしたのが始まりだった」

 京子さんはどこか懐かしむように目を細める。

 愛しさと寂しさとが混じりあった瞳を見て、隣で見ている私の心もきゅっとなった。


「ずっと一緒だなんてよく言ったものよ。本気でそうなればと彼といる未来をシュミレーションしていたのに、あっさりこの春に入学してきた後輩のことを好きになりましたって。なかなか言い出せなくて、半年くらい黙ってたそうよ、彼」

「そんな……っ」

「ね? 頭に来るでしょ。なのに、あたしが怒ると思ったら言い出せなかったとか、あたしのせいばっかりにして……っ!」

「それは酷いですね……」

「でしょ? 他に好きな子ができたと聞いたときから悔しかったけどさ、あとから思えばだんだん腹が立ってきて……っ!」

「それで、彼に思っていることを言いに来たのですか?」

 だけど、京子さんは静かに首を横にふった。