「あ……っ」


 商店街に向かう道すがら、通りかかった屋寝付きのバス停のベンチに見覚えのある人影が見えた。

 肩までのウェーブのかかった茶髪に、今日は秋らしい色合いの服装をしているお洒落な女性は、寄り道カフェの常連客の京子さんだ。

 ベンチに腰かけてぼんやりとどこか遠くに視線をさ迷わせる横顔に覇気はなく、やっぱりまだ失恋から立ち直れていないんだと感じさせられる。

 声をかけるかかけまいか、思わず足を止めて京子さんの方を見ていると、不意に京子さんがこちらを向いた。


「あら、新入りちゃんじゃない!」

 私を視界に入れるなり、今までの翳った表情を嘘みたいに引っ込めて、京子さんはにこりと元気そうな笑みを見せる。


「こんにちは」

「あ、今日はバイト休みか」

「はい。私は土日はお休みなんです」

「そっか。買い物?」

 京子さんは、私の手から提がる赤いエコバッグに視線を落とす。


「母に頼まれてしまって……。京子さんは?」


 聞いたら悪いかなと思いながら、今はすっかり姿を消してしまったさっきの切なげな表情が頭から離れなくて思わずたずねてしまう。

 けれど京子さんは私が思っていたよりもずっとすんなりと彼女自身の心の内を口にしてくれた。