しばらく部屋でいろいろ考えていたけれど、だんだんそれに飽きて、私は部屋を出てリビングにゴミ袋を取りに向かった。たまには部屋の片付けでもしようかなと思い立ったからだ。


 リビングに入ってきた私を見るなり、表情を輝かせた母親の姿が目に映る。

 瞬間、しまったと思うが手遅れだ。今更引き返すなんてできない。


「綾乃、ちょうどよかったわ」


 母親はこちらに歩いてくるなり、私に向かって赤いエコバッグを渡してきた。 

 中には母親の財布とメモが入っている。


「ちょっと買い物頼まれてちょうだい」

「ええっ、今から部屋の片付けをしようと思ってたんだけど」

「部屋の片付けなんていつだってできるでしょ? 買い物に行かないと今晩食べるものがないのに、これからおばあちゃんのところに行かないといけなくなって」


 私が部屋を出る前、母親が誰かと電話で話していたのが聞こえたが、今の話から父方の祖母だということがわかった。

 祖母は近くに一人で暮らしているが、何か困ったことがあればすぐに母を呼びつけるのだ。

 どうせ近くなのだから一緒に住もうという話も出たが、祖母は気を遣うからと頑なにそれを拒んでいるらしい。


 今は少し忘れっぽくなったとはいえ、祖母は孫の私にも厳しい人だから、私もできれば一緒には住みたくないのが本音だ。


「おばあちゃんのところに行った帰りに買い物に寄ってくることはできないの?」