寄り道カフェで働いている間は、坂部くんもミーコさんもあやかしのお客さんもみんな人間の姿をしているから、何も問題ないだろう。

 けれど、問題はそこではない。

 坂部くんと一緒にバイトをしてるなんて言ったら、明美は何て言うだろう。


「いくら頭よくても坂部に聞いてもダメだって。その問題なら、むしろ私に聞いてくれたらよかったのに」

「うぅ……っ。ごめんね、明美」


 もっと突っ込んで何か聞かれるかと思ったけれど、明美は自分のノートを席から取って戻ってくると、私にその答えを書かれたページを見せてくる。


「わからないところは? 坂部の答えで合ってるけど、説明がいるならするよ」

「ありがとう……」

 本当のことを言い出せないだけに、何だか明美に申し訳なくなる。


 坂部くんは、決して人間のことが嫌いなわけではないと思う。

 だって人間が嫌いだったら、人間の高校生の姿でわざわざ学校になんて通わないと思うし、寄り道カフェだってしてないと思うし、私のこともいくら正体を知られたとはいえ雇わないと思う。

 そもそも言ってることとやってることが、ちぐはぐ過ぎるのがいけないんだ。


 自分を変えるのさえ難しいのに、人を変えるのはもっと難しい。


「で、やっぱり綾乃は坂部のこと気になってるの?」

 挙げ句の果てには、本来の目的は全くもって果たされる兆しが見えない中、明美に余計に坂部くんとのことを怪しまれるだけだった。

 結局、実りのないまま土日を迎えた。


 私は慣れるまでは土日のバイトは入らなくていいと言われている。

 商店街から外れたお店は、土日だから混むとかそういうわけではないのだそうだ。

 そういえば二、三日に一回はお店に顔を出していたらしい京子さんも、あの日以来、お店に訪れていない。

 もしかしたら土曜日の今日来ている可能性もあるのかもしれないけれど、頻繁に見ていた顔を見かけなくなると気になってしまうのは自然なことだと思う。

 明美は土日も吹奏楽部の練習があるから、遊び相手のいない私は特にやることもなく暇を持て余しながらこの一週間のことを思い返していた。