私が次の言葉を口にする前に、坂部くんは再び横目で私を見ると、まるで帰れと言わんばかりにシッシッと手でしてくる。


「あんまり遅くなると、その格好じゃ帰り道に補導されるぞ」


 学校帰りにここに寄っている私は、寄り道カフェを出るときは再び制服姿に戻っているから間違ってはないのだろう。

 けれど、やっぱり坂部くんの態度と言動が矛盾しているように感じて、私は思わず言い返していた。
 

「ちょっと、私の話はまだ終わってないんだけど」

「俺は終わったから。帰れ」


 な、何なのよ!

 しかし、確かにもう帰らないといけない時間だ。

 実際に十九時半にお店を閉めたあと片付けを手伝っていたから、二十時を少し過ぎている。

 家は商店街を抜けた先を曲がって少し行ったところだから、このカフェからだと学校から帰るより近い。

 坂部くんの言うとおり、商店街で夜遊びをして帰る部活動生を取り締まるために、毎日というわけではないが、抜き打ちで二十時半以降に学校の先生が見回りをしているという話は学校内で有名だ。

 遊んでいたわけではないのに、先生に捕まってしまうのはさすがに避けたい。


「わかったよ。帰りますよーだ」

 大人げないなと思いながら、行き場を失った気持ちをぶつけるように坂部くんにべーっと舌を出す。


「ああ、気をつけて帰れよ。お疲れさま」

 それなのに、そんな私と対照的に落ち着いた口調でそう返されて、何だか恥ずかしくなった。


 私を雇うとき、坂部くんは、まるで私が何もやってこなかったから何もできないみたいなことを言ってきた。

 そのくせ、坂部くんこそ人間と関わることから逃げてるんじゃないのだろうか。


 人のことをああだこうだ言うくせに、自分はどうなんだって話だ。

 坂部くんが人間が嫌いなら、人間の私を雇うはずがないし、学校にも通わないだろう。


 本当のところは何もわからない。

 けれど、自分はみんなと違うと一線を引いて問答無用で突っぱねようとする坂部くんを許せなかった。

 人には偉そうに言っておきながら、坂部くんは意図的に人間付き合いを避けているんだ。それなら、坂部くんも人間付き合いを克服してから言えって話だ。