「質問はそれだけか? 遅くならないうちに帰れ」


 何も言い返せずにいる私の話を一方的に切り上げて、坂部くんはすぐにレジの作業に戻る。

 目の前に見える横顔に、私は思いきって言葉を続けた。


「……さっき深入りするなって坂部くんは言ったけどさ、私はあやかしと人間の別れ方を知ったからって、あやかしのことを拒むようなことはしないよ」


 坂部くんの三角の耳がピクリと動く。

 こちらに視線こそ動かさなかったものの、どうやら話を聞いてくれているようだ。


「だから一方的に拒絶しないでほしい」


 坂部くんはまゆを寄せて私の方を見やる。

 漆黒の瞳はまるで私相手に警戒しているようだ。

 決して坂部くんに危害を加えようとしているわけではないし、そもそもクラスメイトだというのに、どうしてそんな懐疑の目で見られなければならないのか、不思議で堪らない。