ミーコさんと残りの片付けを終えたあと、厨房から出ると坂部くんは変わらずレジの前で作業をしているようだった。

 自分の尻尾のモフモフしたところに腰かけるように床に座って札束を数える坂部くんは、私のことに気づいたようでちらりとこちらを見た。


「あ……」

「立石さんか。終わったなら帰っていいぞ」


 けれど、坂部くんは一言告げてすぐに手元に視線を戻した。

 突っぱねるような物言いは、まるで私自身を拒絶されているようだ。

 今はバイト中なのだから、仕事が終わったら帰っていいと言われるのは当然のことなのかもしれないけれど。


「あのさ、坂部くんはどうして私を雇ったの?」


 数えていた札束を一旦レジカウンターに置くと、坂部くんはようやくちゃんと私の姿を漆黒の瞳に映した。


「は? 何だ、急に」


 何のことを言っているかわからないと言いたげに坂部くんは私に問う。


「や、私のことを雇ったくせに深入りするなとか言うし、それならどうして私を雇ったのかなって思って……」

「……バイトを探していたのはおまえだろう。ちょうどよく俺らの正体も知られたことだし、雇ってやっただけだ」


 あたかも私がここでバイトがしたいと頼み込んだかのような言い方だけど、それは違う。

 だけど、今はそのことで言い合いをしたいわけじゃない。