てへっと舌を出してお茶目に笑った京子さんは、どこからともなく取り出した葉っぱを頭の上に乗っけると、ポンと弾けるような音とともに白煙に包まれる。

 そして次の瞬間には、人間とキツネの入り交じった姿から、京子さんは黄金色の毛並みの美しいキツネの姿になった。


 目の前のキツネはこちらにパチンとウインクすると、再び葉っぱを頭の上に乗っけて、先ほどと同じ白煙に姿を隠す。

 そして、今度こそ見慣れた人間の姿に戻っていた。


「……そういうこと。新入りちゃんは、ギンのこともミーコちゃんのことも知ってるからよかったけど、元彼の前で突然耳が飛び出して、化け物って言われてフラれたことも何度かあったわ」

「そ、そうなんですね……」


 予備知識もない状態でいきなりあやかしの耳やらヒゲやらを見せられた京子さんの過去の恋人に、思わず同情してしまう。

 さすがに心臓に悪い……。

 しかも何度かあったということは、一度や二度のことじゃないってことだ。


「今回はそこには細心の注意を払ってたのになー。何でダメだったんだろう?」

 はあーあと深いため息を落とした京子さんは、食べかけのベリーのムースを口に運ぶ。

 甘いものを食べても、お気に入りのアイスミルクティーを飲んでも、京子さんの表情は浮かないままだった。

 *

 三時間の営業を終えたあと、洗い終えた食器を棚に片付ける。

 今日のお客さんは、京子さんを含めて十人ほどだった。

 私は坂部くんのあとをついていって寄り道カフェの存在を知ったけど、みんなどこでこのカフェの存在を知るのだろう。

 どのお客さんも今まで人間のように見えていたが、もしかして京子さんと同じように人間に化けてるだけで、本当の姿はあやかしのお客さんばかりだという可能性もあるのだろうか。