今まで深く考えたことはなかったけど、一度気になればそうなんじゃないかという疑問が生まれてくる。

　それに京子さんは坂部くんのことを小生意気な狼と言っていたけど、まさか坂部くんの正体を知っているなんてことはあるのだろうか。

　そんなことを考えているうちに、再び京子さんの声が響く。


「もう、ミーコちゃんを殴れるわけないじゃない！」

　そのとき、ぴょこっと突然、京子さんの頭の上に二つ黄褐色の三角の耳が飛び出した。


「えええええっ!?」

　目の前の信じられない光景に、思わず私は飛び跳ねてあとずさった。

　驚きすぎたせいか、膝がガクガクと小さく震えている。


「びっくりした。どうしたのよ」

　私の声と物音に驚かせてしまったようで、京子さんはびくりと身体を震わせて、こちらを振り向く。

　けれど、その姿にも私の悲鳴が上がった。


「わああっ！」

「な、何よ。あたしがどうかしたの？」


　京子さんの姿を見て悲鳴を上げるとか、失礼にも程がある。

　けれど、とてもじゃないけど平常心を保ってなんていられない。


「京子さ……、耳、それにヒゲも……っ」


　京子さんの頭には、二つの三角の黄褐色の耳が飛び出している。

　そして、頬にはまるで猫や犬のような黒いヒゲが、横向きに三本ずつ生えている。

　さっきまでは、なかったはずのものだ。


　京子さんはハンドバッグからコンパクトミラーを取り出して、自身の姿を映す。

　そして、納得したような表情を浮かべた。