前回ご来店されたとき──と言っても先週の金曜日のことだが、土日はデートなんだと京子さんは散々のろけて帰ったというのに、この少し見ない数日の間に一体何があったというのだろう。


「……何がいけなかったのよ」

 そのとき、小さな声でぽつりと京子さんがつぶやいた。


「……え?」

「他に好きな子ができたんだって言われたわ。年下の大学生の女の子だって」

「そう、だったんですか」

「見に行ったけど、全然どこがいいのかわからなかったわ。何であんな子どもみたいな子が……」


 テーブルの上で京子さんが握った拳が、ワナワナと震える。

 同時に、京子さんの目元から二つの透明の雫が落ちた。

 きっと京子さんは、その男性のことが本当に好きだったのだろう。

 京子さんの苦しい気持ちが私にも伝染してくるようだが、こんなときどんな言葉をかけたらいいのかすぐにはわからなかった。


「騒々しいですね」

 そのとき、オーダーの商品を持って奥から坂部くんが出てきた。


「何よ、ギン。相変わらず冷たいのね」

「別に。俺は通常運転ですよ」

 顔色ひとつ変えずにこたえる坂部くんに、京子さんは思わずといった感じにクスリと笑う。


「冷たいのは否定しないのね」

「本日のケーキとアイスミルクティーでございます」