たとえ聞かれていたところで坂部くんは全く気に留めもしないのだろうけれど、バイトで顔を合わせないといけないのに余計ないざこざの要素は増やしたくない。

 そもそも私の心配は無用だったようで、さっきまでそこに見えた坂部くんはすでに教室を出ているようで、もぬけの殻となっていた。


「それより明美はこのあと部活だよね。ごめんね、時間、大丈夫?」

「うーん。そろそろ行かないとヤバイけど、まぁいいよ」


 明美はどこかスッキリしない笑顔を浮かべる。

 以前までは、私が放課後荷物をまとめるのがちょっとでも遅かったら、部活に遅れると言って急かされたり、場合によっては声だけかけて私が荷物をまとめ終わるのを待つことなく部活に行ってしまったりといった感じだったのに、最近はそれがない。

 やっぱり部活動の部長というのは、私の想像を超えた難しさや苦労があるのだろう。

 特に最近の明美は、時々どこか疲れたような雰囲気が見え隠れしている。

 明美は気合いを入れるようにペチペチと両頬を両手の平で叩くと、よし、と口を開いた。


「さっ、綾乃を生徒玄関まで見送ったら、私も部活頑張ろうっと!」


 その姿がまるで何も聞いてくるなと明美に遠回しに言われているように思えて、私は何も聞けなかった。

 *

 私のバイトは主に、平日の放課後だ。

 平日の放課後と言っても、寄り道カフェ自体が、平日は十六時半~十九時半の三時間のみの営業となっているため、それほど夜が遅くなりすぎることはない。

 ちなみに土日は十一時から十八時の営業らしい。