「あ、今行く。じゃあ、私、行くね。ちゃんと忘れずに出して帰りなよ」

「……はいはい」


 片手を振りながら廊下へと出ていく明美には、将来幼稚園の先生になるという夢があるらしい。

 吹奏楽部に所属しているだけあって明美は音楽が得意だし、年の離れた妹の面倒もよく見てきたみたいだから、明美にぴったりだと思う。

 いいなぁ、何かしらの適性のある人は……。


 とりあえず進路希望調査票には何か書いて出さないといけない。

 卒業後進学せずに就職を選ぶ道もあるが、まだ社会に出る自信のない私は進学に丸をつける。

 そして、その下の空欄に地元の大学を家から近い順に三つ書いて提出することにしたのだった。

 *

 進路希望調査表の紙を提出しに行ったとき、偶然にも担任の先生は不在だった。

 おかげで進路希望調査表について何かを突っ込まれて聞かれる事態に陥らなくて安堵する。


 校舎を出ると、西に傾く太陽に照らされた空間の中、明美たちの吹奏楽部の音色が響いていた。

 それに混ざるように、合唱部の歌声や、運動部の掛け声も聞こえてくる。

 青春をそのまま表現したようなざわめきは、それらと無関係な私の心をきゅっと締め付けてくるようだ。

 それに気づかないフリをして校門をくぐる。


 私の家は、高校から徒歩圏内だ。

 帰る間際に現実を見せられたからか、何となく気分が上がらずに、とぼとぼ帰り道を歩く。

 いつもなら真っ直ぐ帰ることがほとんどだけど、こんな日は少し気分転換がしたい。

 家に帰ったところで、宿題に家の手伝いが待っている。それならどこか寄り道して帰ろうと思った私は、学校から十分ほど歩いたところにある商店街に足を伸ばすことにした。