「もしかして気になってるの? 坂部のこと」

「……へ?」

 思わず机の中から数冊出した教科書やノートがバサバサと床に落ちてしまった。


「わわわっ」

「そんなに動揺しなくても」


 明美は私を見て、人が悪そうな顔でニタニタと笑う。

 足元に散らばる教科書やノートを手に取り、明美は私に手渡してくれる。それ自体はありがたいけれど、かけられた言葉に思わずムッとしてしまう。


「……ありがとう。坂部くんのことは、別に気になってるとかじゃないから」

「そんなに怒らないでよ。だって、あまりにも綾乃が坂部の方ばっかり見てるように見えたから、ちょっとからかっただけだって」


 そんなに私は坂部くんのことを見ていたのだろうか。

 確かに授業中に先生に当てられた坂部くんのことを見ながら、ここ最近に起きた信じられないような出来事を思い返してはいたけれど。


「ま、坂部はないか。イケメンだけど、人を寄せ付けないオーラ出すぎだし」

「そ、そうだよ。もう、冗談やめてよね」


 言いながら、思わずまた坂部くんの席の方を見てしまった。

 今の会話を坂部くんに聞かれてたらどうしようと思ったからだ。