坂部くんにバイトとして雇われてから一週間が過ぎようとしているけれど、それも未だに信じられない出来事のように感じている。

　人間のお客さんも多いとは聞いていたけれど、人通りの多い商店街から外れてひっそりとただすんでいるカフェだし、正直それは半信半疑だった。

　だけど、何日か働かせてもらったところ、むしろ人間のお客さんしか来ていないように見える。

　私の仕事自体は注文を取ったり、注文の品を運んだりと、接客が主だ。けれど些細なミスをしてしまいそうになることが多く、ヒヤヒヤしてばかりだ。坂部くんやミーコさんのサポートのおかげで、大きな失敗なくなんとか上手くやれている感じだ。


「……綾乃？　あーやーのっ！」

「えっ!?」


　名前を呼ばれると同時に、坂部くんを映していた視界は誰かの手により遮られる。


「あ、明美!?」

　すると、目の前には親友の明美が不思議そうに首をかしげていた。


「どうしたの？　授業終わったよ？」

「え？　ああ、ちょっと寝てたのかな」

「目を開けたまま？　金魚みたい」


　明美はケラケラとおかしそうに笑う。

　金魚って……。確かに金魚は目を開けて寝てるように見えるけどさ。

　けれど、私の言い訳が酷かったのが元々の原因なのだから、ここは反論するつもりはない。


　よっぽど私がぼんやりとしていたのか、授業が終わっていたことにすら気づかなかった。さらには、いつの間にか教室にいた生徒の半数はすでにいなくなっていた。

　明美は部活があるはずだから、あまりここでのんびりできないだろう。

　それでも私を心配して声をかけてくれたのだから、少しでも早く帰る支度を終えなければと、私は必死に手を動かす。

　そんな中、明美は突然私に耳打ちをしてきた。