再びちらりと坂部くんの方を見ると、彼はすでにこちらのことは気にも留めず、廊下側の真ん中の席へと戻っていた。


　坂部くんの話によると、私たちが見ている坂部銀士という高校生男子の姿は仮の姿で、寄り道カフェで見た漆黒の長髪の髪と三角の耳、モフモフの尻尾を持ったギンの姿が、本当の姿なんだそうだ。

　もちろん年齢も私たちと違って、坂部くんは一二五歳だそうだ。どうやら人間とあやかしでは寿命に大きく差があるらしく、あやかしは人間の何倍も長く生きるようだ。


　どうして人間の姿で高校生をやっているのかというと、「人間の勉強とやらをやってみたかったから」らしい。

　勉強をしたくて学校に通ってるだなんて……。やらないといけないから勉強をしている私とは違うなと思った。

　現に坂部くんは成績は学年でもトップクラスとして知られていたが、その理由がわかった気がした。


　寄り道カフェを始めたのは、今から五十年前くらいかららしい。

　坂部くんは最近始めたばかりだと言っていたが、人間の私からしたら、もちろん五十年前のことを最近だなんて思えない。