昼休み後の数学の授業って、どうしてこう眠いのだろう。


「では、この問いを坂部」

「……はい」


 もう今にも寝落ちしそうだったが、坂部くんが指名されたのが聞こえて、私は思わず黒板の方へ向かう彼の方に視線を移した。

 漆黒のさらさらの髪。その下から覗く整った目鼻立ち。坂部くんは思わず目を引く容姿を持つ反面、人を寄せ付けないようなオーラを持ち合わせている。


 この前までは何の接点もないクラスメイトだったのに、偶然、商店街の外れのカフェに入っていく坂部くんを追いかけて、彼が元のあやかしの姿に戻るところを見てしまった。

 そして、それをきっかけに私は寄り道カフェでバイトをすることになった。

 滞りなく黒板にチョークを走らせる坂部くんを見ていると、ここ最近の出来事は全て夢か何かだったんじゃないかと思えてくる。


 坂部くんが漆黒の狼のあやかしだなんて、誰が想像ついただろう。

 このクラスで、いや、この学校中でその事実を知っているのは、恐らく私だけだ。


「正解。坂部、席に戻っていいぞ」


 いつの間にか坂部くんは全ての解答を書き終えて、先生が赤チョークで大きく丸を書く。

 こちらを振り返った坂部くんと思わず目があってしまい、慌てて視線をそらした。


 改めて考えてみれば、別に慌てて視線をそらす必要なんてなかったかもしれない。

 まさか目が合うなんて思ってなかったからなのか、よっぽど今の出来事は私を驚かせたようだ。

 思わず飛び跳ねた胸はドキドキと早鐘を打っている。