でも、私ひとりだと絶対にこんなに美味しそうなフルーツ生チョコタルトは完成してなかった。


「これだけできれば充分だ。実際、ケーキは俺が作るし、おまえはミーコとドリンク用意して接客してたらいいんだし。特別に雇ってやる」

「ちょっと待って! まだ私、働くなんて一言も……」

「何もしないでいると、いつまで経っても自信なんてつかないぞ」

「……え?」

「おまえには何もないわけじゃない。何もやってないだけだから」

「でも私、ドジだし、きっと迷惑かけ……」

「しつこいな。それで良いって言ってんだから。それに、こっちとしても、俺らの正体を知ってる奴の方がいろいろ都合がいいんだよ」

 坂部くんの正体を知ってると言っても、私だってついさっき知ったところだ。


「とにかく決まりな。ちょうどもう一人欲しいなと思っていたところだったんだ」

「えぇえっ!? そんな勝手に……」

「心配しなくてもバイト代はちゃんと出すから」

「そうじゃなくて……っ!」

「おまえが一生何もない立石綾乃のままでいいなら、無理は言わない」

「……なっ!」

「明日、十六時にここな」

 涼しげな顔でそう言うと、坂部くんは厨房の方へと戻っていってしまった。


「では、綾乃さん。明日からよろしくお願いしますね」

「は、はい……」


 あんな言われ方をされて、断る気にはなれない。

 元々バイト自体には憧れていたし、興味もあった。

 確かに私は何もない。けど、何でもやってやるという気持ちだけは、不思議なくらいにこのときの私は強く感じていた。