そのとき上を輪ゴムで縛ったビニール袋が音もなく私の目の前に置かれた。

 ビニール袋の中には、ビスケットが数枚入っているようだった。


「……え?」

 何だろう、とビニール袋をつかむ手の持ち主を見上げると、カフェ制服姿の坂部くんがこちらを見下ろしていた。

 そして、木の擦り棒をこちらに向けて差し出してくる。


「それ、潰して。上、縛ってるから大丈夫」

「え? 何で?」

「いいからやって」


 わけがわからないまま坂部くんの言うとおりに、グリグリと袋の中のビスケットを潰す。

 綺麗な四角の形をしていたものを粉々にしてしまうのは何だかとても勿体ないような気持ちになる。


 その間、一度厨房の方に戻った坂部くんは、何やら白いココットとシルバー型を手に戻ってくる。


「いい感じだな」


 そして私が砕いたクッキーの入った袋を取ると、坂部くんはその中に白いココットの中の黄色い液体を入れた。


「ここに溶かしバターを加えて。はい、よく揉んで」

「え? うん……」


 手渡された袋は、粉々に砕いたクッキーに溶けたバターを加えたことでほんのり温かい。


「これをタルト型に、入れて」


 坂部くんが目の前に置いたシルバーの型は、タルト型らしい。タルト型にはあらかじめラップが敷かれている。

 袋の中身をタルト型に入れると、坂部くんは平らにするよう押し固めるように言った。

 再び厨房に戻った坂部くんは、今度は銀色のボールとマグカップを持ってくる。