「そりゃあ、いきなり人間じゃないって言われても……。それに、坂部くんがここの店主っていうのも何か……」


 思わずすでにぬるくなった紅茶を一口含む。

 そういえば、この紅茶には摩訶不思議なことも受け入れやすくする効果があるんだっけ。

 それさえ信じられないような気になるが、現にそのおかげで私はこれまでの信じられない光景を見た直後でも平然を保っていられるのだろう。


「そうでしょうね、いろいろ驚かせてしまいすみません。ギンさんは、現在人間の姿では高校生で通用していますからね。そういう意味では、あやかしの存在を知らない人間の方には、私が建前上の店主でギンさんはバイト従業員として紹介いたしております」


 高校生でカフェの店主をしているというのは私たちの感性では違和感があるし、目の前の大人の女性に見えるミーコさんが店主と言われる方がしっくりくる。

 けれど、ミーコさんの言い方だと、やっぱりここの店主は事実上坂部くんなのだろう。

 けれど、坂部くんと甘いものというのも何だかミスマッチだし、いろんな意味で違和感があると思ってしまう。

 そんな風に思考を巡らせる私に、ミーコさんが口を開く。


「ギンさんは違うって言いましたけど、私には、やっぱりあなたはここに来るべくして来た娘のように見えます」

「……え?」

「だってあなたは、ここに来る前から甘いものを求めていたのでしょう?」


 本来の姿に近い大きな猫目がこちらを見る。

 何となく、ミーコさんには私のことを見透かされているような気持ちになった。


「……はい。本当は気分転換に何か甘いものでも食べて帰ろうと、商店街に寄ったんです。私、甘いものが好きだから」

「じゃあ、ここに来られたのはちょうどよかったんですね」


 ミーコさんは、私の食べかけのフルーツタルトを見て、にこりと笑った。