「そうかい。そのかわり、終わったらちゃんと綾乃ちゃんのお家に帰って、お勉強するんだよ」

「はーい」


 肉じゃがくらいできると胸を張る祖母だが、この春からの半年でも、三回は鍋を焦がしている。

 だから何かとおだてて、買い物のあとは数品目祖母のために料理をする必要があるのだ。

 これをいつも家の仕事と並行して行っている母は、本当にすごいと思う。

 そのとき、ふと私の隣を歩いていた祖母の動きが止まった。


「……おばあちゃん? どうしたの?」

「……ギン、かい?」

「……え?」


 返された言葉に思わず心臓がドキリと跳ねる。

 祖母の視線の先をたどると、黒髪にクールな面持ちの坂部くんの姿があった。

 寄り道カフェは土曜日のこの時間帯も営業している。


 何か買い出しにでも出ていたのだろうか。

 向かい側から歩いてきていたらしい坂部くんは、少し驚いた表情をして、人波をかき分けながらこちらに歩いてくる。


雛乃(ひなの)さんと、綾乃……?」

「……坂部くん、おばあちゃんのこと知ってるの?」


 雛乃、とは、祖母の名前だ。

 坂部くんの口から出たその名前に、彼が祖母のことを知っていることは容易に想像がつく。


「ああ、まぁ……」

 坂部くんは、どこか言いにくそうな様子だった。


「おやまぁ、綾乃ちゃんもギンと知り合いかい?」

「坂部くんとはクラスメイトなの」

「クラスメイト……?」

 祖母は、少し不思議そうに聞き返してくる。