ミーコさんが猫のあやかしで、白猫の見た目になったということは、坂部くんは狼の姿になるということだろうか?

 だけど、ミーコさんは小さく首を横にふった。


「ギンさんの元の姿は、今のこの姿ですよ」

「え……っ? 全然狼っぽくない」

「うるさいな。とにかく、このことについては他言無用だ」

「……もし、言ったら?」

「ま、言ったところでおまえの頭がイカれてるようにしか聞こえないだろうけど」


 坂部くんは漆黒のモフモフの尻尾をひと振りして、淡々と答える。

 元からクールなのはクラスメイトだから知ってたけど、漆黒のモフモフの尻尾の動きが妙に愛らしくて、坂部くんの態度とミスマッチに見える。


 坂部くんがさっき自らの姿を変えたときにしたように頭上に手をかざすと、再び坂部くんは煙に包まれて私が知っている坂部くんの姿に戻った。制服ではなく、カフェの制服のような服装だ。先程ミーコさんは店主と言ってたが、バイト従業員の間違いではないだろうか。


「とりあえずそれ食ったら帰れ」

 坂部くんはそれだけ言って、厨房の方へ戻っていった。


「信じられないっていう顔をしてますね」

 そのとき不意にそばから女の人の声が聞こえて視線を向けると、いつの間にかミーコさんが最初に会った女性店員の姿に戻って私の斜め前に座っている。