「とりあえずそれで一緒に暮らしてみる方向で頑張ってみることにしたんだけど、それでもどうしても無理なら、家を出ても良いって言われたの」

「……え?」

 思わず驚きの声をあげてしまった。

 だって、由梨ちゃんはまだ小学生だというのに一人暮らしをするということだろうか。さすがにそれは早すぎるだろう。


「あ、誤解してたらいけないけど、私が家を追い出されるわけじゃないからね。私の気持ちで二人の仲を壊してしまうくらいなら、そのときは私から家を出たいなと思ったから。それに、早くて中学生になってからだし」

「いや、中学生でも充分一人暮らしには早いと思うけど……」

「だから私が大丈夫だと思えるまでは、ここを目指して勉強することにしたの」

 由梨ちゃんはランドセルからA4サイズの薄いパンフレットを取り出して、私に向かって差し出した。それは、隣県にある難関私立校のものだ。


「ええっ!? すごい……!」

「この学校の近くにね、評判のいい学生マンションがあるの。けど、まだ私は子どもだしお父さんのこともお母さんのことも心配させないように家を出るにはこの方法が一番かなって」

「そうだったんだね」

「もちろん一番はお父さんとお母さんと仲良く暮らせることなんだろうけど、まだわからないし。私らしく生きるために必要なら、こういう方法を取ってもいいって言ってもらえたの」


 もしも上手くいかなかった場合のことまで相談しているだなんて、それだけ深く話し合ったということなのだろう。

 由梨ちゃんはまだ小学生だというのに、お母さんと新しいお父さんのことを本当によく考えているなと思った。


「本当に頑張ったね、由梨ちゃん」


 もし本当にこの学校を受験してこの町を出ていくことになれば、なかなか会えなくなるんだなと思うと少し寂しく感じるけれど、由梨ちゃんの生きやすい生き方を見つけていってほしい。


「まあ、受験するかどうかはわからないけど、人間とあやかしの間にうまれた子どもは、あやかしの世界ではなかなか暮らしていけないから……。人間の世界で何とかやってくには勉強は必須だからね。とりあえず今はお父さんと家族になることと勉強と頑張る!」