坂部くんが触れた背中が熱い。

 人間としての坂部くんとあやかしとしての坂部くん。その二つの姿を全てひっくるめた彼自身に、やっぱり私は惹かれているのだろうか。

 それに呼応するように、ドキドキと鳴る胸の鼓動が静まることはなかった。

 *

 それから数日が過ぎる。

 開店時間直後、寄り道カフェの敷地内の落ち葉を集めていると、商店街とを結ぶ路地から元気な声が聞こえてきた。


「綾乃さんっ!」

 数日ぶりに顔を見せる由梨ちゃんだ。


「由梨ちゃん! いらっしゃいませ」

 ほうきを持ったままペコリとお辞儀をしていると、由梨ちゃんは私に飛び付いてくる。


「この前はありがとう。お母さんと、新しいお父さんとちゃんと話し合ったよ」

「すごい。頑張ったんだね」

 とても言いづらいことだっただろうに、自分の気持ちを伝えることができただなんて、本当にすごい。


「さすがにお父さんにあやかしの話はできなかったけど、でも、お互いのプライバシーを守るための配慮とか、そういうのを話し合ったの。一緒に暮らすようになってから私が居心地悪そうにしてるの、お父さんは気づいてたみたいで……」

「そうだったんだ」

 それなら、由梨ちゃんとしては今までよりずっと一緒に暮らしやすくなったということなのだろうか。

 安易に良かったねと口にしていいのか迷っていると、由梨ちゃんはそんな私の様子を気に留めることなく、大きくうなずいた。

「うん、お父さんも私とちゃんと話をしないといけないって思ってたんだって」

 それならもっと早く話し合ってれば良かったーと口にする由梨ちゃんの様子から、きっと由梨ちゃんの思うように話ができたのだろうと感じて、ようやく私もホッと胸を撫で下ろす。