「う、うん……。だから、そんな悪く思う必要なんてないと思う。私は、本来の姿の坂部くんのことも好きだよ」

 何だかまるで告白みたいになってしまって、一気に顔に熱がこもる。


「あわわわっ! いや、そんな変な意味じゃなくて、その……っ!」

 暗がりの中見える坂部くんも片手で顔を覆ってはいるが、ちらりと見える頬は真っ赤に染まっているようだ。


「ごめんなさい……」

「……いや、いい。でも、嬉しいから。ありがとう……」


 珍しく歯切れの悪い話し方から、坂部くんの緊張まで伝わってきて、私まで余計に恥ずかしくなる。

 そうしているうちに、坂部くんがいつもの調子で口を開く。


「……ほら、着いたぞ。綾乃の家、そこだろ?」

 いつの間にか家のすぐ近くまで私は帰ってきていたようだ。


「……私の家、知ってたの?」

「まぁ。っていうか、うちでバイト始めるときに書いてもらった紙に自分で記入したんじゃん」

「そうだけど……」

「ほら、もう夜も遅いんだから。これ以上、家の人を心配させないように帰れ」


 坂部くんは強引にも私の背を押して、私を家のすぐ近くまで連れていく。

 そして、すぐさま坂部くんは今来た道を引き返していくんだ。


 そのとき見えた坂部くんの頬はやっぱりまだ赤くて、少しだけ冷静さを取り戻した私は、そんな坂部くんの姿さえ可愛いと思った。

 坂部くんはこちらを振り向くことなく、片手を少し上げて手を振ってくれていた。