「そうじゃなくて!」


 何で今日はこんな風に坂部くんは歪んだ捉え方をするのだろう。今まで見たことのないくらいの卑屈っぷりだ。


「私はそのことを責めてるわけじゃなくて、もしかしてそうなのかなって思って、聞いてみただけだから」


 坂部くんの言い方だと、純血のあやかしではないことを意図的に隠していたかのように聞こえる。

 自らの意思で隠していたのなら、それほどまでにあやかしと人間の子どもと言うものは、あやかしの世界では歓迎されないものなのだろう。

 もしそんな環境で生きてきたのなら、坂部くんが自分に対して卑屈になったり、本来の姿を快く思えなかったりしてしまうのは自然なことだ。

 坂部くんが人付き合いを根本的に拒んでいた理由は、彼の本来の姿に起因するものなのかもしれないと思った。


「……確かに私の目から見たら大きく変わらないように見えるよ、純血のあやかしであろうと、なかろうと。もちろん、私たち人間とも」

「そうか?」


 自分が生まれ持った姿のせいで、卑屈になる必要なんてない。

 少なくとも私は、ありのままの坂部くんのことを受け入れているのだから。


「そりゃあ、元の姿の見た目はそれぞれ違うよ。でも笑ったり泣いたり怒ったり、恋したり。みんな一緒だなって私は思う。そこで線引きするのは、何か違うなって思うの」

「……何か、綾乃らしい考え方だな。ありがとう」


 ふわり、と。音で例えるとそんな柔らかな音がしそうな坂部くんの笑みが見えた。

 寂しげだけど、どこか嬉しそうだ。

 月明かりのせいなのか、レアな坂部くんの柔らかな笑みだからなのか、素直に目の前の彼を綺麗だと思った。