*
由梨ちゃんがアップルパイを食べ終えたら、私と由梨ちゃんは坂部くんと一緒に寄り道カフェをあとにする。
ミーコさんは、最後お店を閉めるためにお店に残った。
由梨ちゃんの住むマンションというのは、商店街から出たところにある、私も帰りに通る道すがらにあるファミリー向けのマンションだった。
アップルパイの入った箱を両手で持って、由梨ちゃんはマンション前で立ち止まってエントランスを不安そうに見ていた。
さっきは話してみると意気込んでいたものの、いざとなると尻込みしてしまう気持ちはよくわかる。
「由梨ちゃん」
由梨ちゃんに何か声をかけようとしたところで、別の低い声が由梨ちゃんを呼んだ。
「おじさ……お父さん」
私たちも由梨ちゃんの視線の先を見やる。すると、商店街の方から走ってきたのだろう物腰優しそうな男性が肩で息をしていた。
もしかして、この人が由梨ちゃんの新しいお父さんなのだろうか。
「良かった。お母さんも由梨ちゃんが帰ってこないって、心配してるよ」
「……ごめ、んなさい」
由梨ちゃんの瞳から涙がこぼれ落ちる。
男性は決して帰りが遅くなった由梨ちゃんを怒鳴るようなことをせず、包み込むような優しい顔で由梨ちゃんの頭を撫でる。
「何で怒らないの……?」
「由梨ちゃんが無事に帰ってきてくれたからね。さあ、行こうか。あなた方が由梨を送り届けてくれたんですよね。ありがとうございます」
男性は由梨ちゃんの手を取ると、私たちの方にも頭を下げた。
いわゆる優しくていい人を絵に描いたような男性だ。
由梨ちゃんがどうしてもお父さんを嫌いになれないけれど、家族として受け入れることもできずに苦しいと言ったのは、本当に新しいお父さんがいい人だからなのだろう。
「いえ、こちらこそいつも由梨さんにはお世話になっております。じゃあな、由梨」
坂部くんは一足先に、由梨ちゃんのお父さんに頭を下げて、隣にいる由梨ちゃんと目線を合わせる。
クールな面持ちは相変わらずだが、坂部くんの顔は由梨ちゃんを応援しているように見えた。
由梨ちゃんのお父さんに、私からも何かを言うべきなのかすごく迷った。
けれど、下手すれば余計なお世話にしかならないだろう。
すると必死で頭をフル回転させる私の手に、由梨ちゃんのひとまわり小さな手が触れた。
「綾乃さん、私なら大丈夫だよ」
由梨ちゃんは私と目が合うと、力強くにこりと歯を見せて笑った。
「ギンさんも、綾乃さんも、今日はありがとう」
「おう」
「由梨ちゃん、頑張ってね」
そして、くるりと私たちに背を向けた由梨ちゃんはお父さんと手を繋いで迷いのない声で口を開いた。
「お父さん、家についたらお母さんとお父さんと話がしたい」
「由梨の話? 何だろうな~」
朗らかに笑う由梨ちゃんのお父さんに、由梨ちゃんは少し申し訳なさそうな表情を浮かべている。
けれど、由梨ちゃんたちの後ろ姿を見て、何となく大丈夫だろうと私は感じた。
由梨ちゃんがアップルパイを食べ終えたら、私と由梨ちゃんは坂部くんと一緒に寄り道カフェをあとにする。
ミーコさんは、最後お店を閉めるためにお店に残った。
由梨ちゃんの住むマンションというのは、商店街から出たところにある、私も帰りに通る道すがらにあるファミリー向けのマンションだった。
アップルパイの入った箱を両手で持って、由梨ちゃんはマンション前で立ち止まってエントランスを不安そうに見ていた。
さっきは話してみると意気込んでいたものの、いざとなると尻込みしてしまう気持ちはよくわかる。
「由梨ちゃん」
由梨ちゃんに何か声をかけようとしたところで、別の低い声が由梨ちゃんを呼んだ。
「おじさ……お父さん」
私たちも由梨ちゃんの視線の先を見やる。すると、商店街の方から走ってきたのだろう物腰優しそうな男性が肩で息をしていた。
もしかして、この人が由梨ちゃんの新しいお父さんなのだろうか。
「良かった。お母さんも由梨ちゃんが帰ってこないって、心配してるよ」
「……ごめ、んなさい」
由梨ちゃんの瞳から涙がこぼれ落ちる。
男性は決して帰りが遅くなった由梨ちゃんを怒鳴るようなことをせず、包み込むような優しい顔で由梨ちゃんの頭を撫でる。
「何で怒らないの……?」
「由梨ちゃんが無事に帰ってきてくれたからね。さあ、行こうか。あなた方が由梨を送り届けてくれたんですよね。ありがとうございます」
男性は由梨ちゃんの手を取ると、私たちの方にも頭を下げた。
いわゆる優しくていい人を絵に描いたような男性だ。
由梨ちゃんがどうしてもお父さんを嫌いになれないけれど、家族として受け入れることもできずに苦しいと言ったのは、本当に新しいお父さんがいい人だからなのだろう。
「いえ、こちらこそいつも由梨さんにはお世話になっております。じゃあな、由梨」
坂部くんは一足先に、由梨ちゃんのお父さんに頭を下げて、隣にいる由梨ちゃんと目線を合わせる。
クールな面持ちは相変わらずだが、坂部くんの顔は由梨ちゃんを応援しているように見えた。
由梨ちゃんのお父さんに、私からも何かを言うべきなのかすごく迷った。
けれど、下手すれば余計なお世話にしかならないだろう。
すると必死で頭をフル回転させる私の手に、由梨ちゃんのひとまわり小さな手が触れた。
「綾乃さん、私なら大丈夫だよ」
由梨ちゃんは私と目が合うと、力強くにこりと歯を見せて笑った。
「ギンさんも、綾乃さんも、今日はありがとう」
「おう」
「由梨ちゃん、頑張ってね」
そして、くるりと私たちに背を向けた由梨ちゃんはお父さんと手を繋いで迷いのない声で口を開いた。
「お父さん、家についたらお母さんとお父さんと話がしたい」
「由梨の話? 何だろうな~」
朗らかに笑う由梨ちゃんのお父さんに、由梨ちゃんは少し申し訳なさそうな表情を浮かべている。
けれど、由梨ちゃんたちの後ろ姿を見て、何となく大丈夫だろうと私は感じた。