結局、坂部くんの元の姿が人間に近い見た目をしている理由は聞けなかったな……。

 がっかりしてしまうのは、純粋に聞きたかったことを聞けなかったからなのだろうか。


 そのあと、濡れたベストを片手に坂部くんの上着を羽織って教室に戻った私が、明美に散々事情を問い詰められたのは言うまでもない。

 *

 それからも、変わらずに由梨ちゃんは寄り道カフェに訪れた。


「昨日なんてね、お風呂に入ったあとリビングに戻ったら、夜買い物に出かけてた新しいお父さんがいつの間にか帰ってて、すごく焦ったの。元の姿の耳とか尻尾は見られてなかったみたいだけど、すごく心臓に悪い……」


 今日の由梨ちゃんは、本日のケーキといつも決まって頼むオレンジジュースを前に、昨晩の寄り道カフェから帰ったあとの出来事について話してくれた。

 最近、こうして由梨ちゃんが不満に思っていることを私にも話してくれることが増えたのは、少しは由梨ちゃんに信頼してもらえているということなのだろうか。


「そうだったんだ。大変だったね……」

「本当に。やっぱり姿を隠したまま一緒に住むなんて無理だよ。お母さんは平気みたいだけど、結構疲れるんだよね、ずっと人間の姿のままでいるのって」


 人間の私にはわからないことだが、どうやらあやかしが人間の姿を保つのは、ある程度の体力を使うらしい。

 それはいくら人間の血が半分流れているとはいえ、ゆりちゃんも大きく変わらないようだ。

 人間の世界で生きるあやかしたちにとっての、人間でいう外行きの顔のようなものなのだろうか。

 家で新しいお父さんといるとき、由梨ちゃんは常に外行きの顔でいることを強いられると考えれば、思わず同情してしまう。