「何でおまえが喜ぶんだよ」

「だって、ねー。えへへ」

「変なやつ」


 うっとうしそうというよりも、むしろ照れ臭そうに、坂部くんはそう口にした。

 坂部くんはそんな私のことを理解し難いみたいだが、嬉しいのは本当だ。

 同じ瞬間を同じ場所で過ごす仲間のことを受け入れることで、坂部くんにとって少しでもプラスになればと純粋に思っている。

 最初の頃は、全然そんなつもりなかったのに、不思議なものだ。


「いつまで笑ってんだよ」

「だってー」

「……でも、俺が変われたならおまえのおかげか。俺と違った見方を聞けて、少し考えを変えることができた。ありがとう」

「……はっ!」


 人間の姿でも整った顔立ちをしている坂部くん。そんな彼に穏やかに微笑まれたのだから、思わずドキリとしてしまうのは不可抗力に近いだろう。

 何より、何だかんだで坂部くんは、私の話をちゃんと聞いた上で考えてくれる。

 そういうところにも、坂部くん本来の人柄のようなものを感じて嬉しい。


「何だよ」

「……だ、だって。坂部くんが、そんなことを改まって言ってくるなんて、信じられなくて……」

「何だそれ。俺、おまえにどんな風に思われてんだよ」


 何となく、坂部くんをまとう空気がいつもより少し柔らかいような気がした。

 遠くからは昼休みの喧噪が聞こえるものの、近くには誰もいない。